スパンコールみたいな輝きで

一瞬だからこそ心に残るものもある

MOJO舞台感想

 

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7/2(日) ソワレ鑑賞

 

前情報としてあらすじとトレーラー映像見た印象で奇劇なんだろうなと思ってたので、物語のあらすじと人物のやりとりに全部意味があると思って見ることにしました。

※正解が明記されないものを個人の解釈で感想を書いています。半分覚え書きなので台詞のニュアンスが違うかもしれません。心の広い方推奨です。

 

オープニングの演出が良い。華やかな歓声とスポットライトを浴びて歌うシルバージョニー。そこから映像へと切り替わりキャスト紹介。2017年のカウントから始まり1958年まで巻き戻るような演出は客席も一緒にタイムリープさせるかの様で一気に世界観に引き込んでくれる。

一幕の冒頭から会話のキャッチボールが早い。スウィーツとポッツの会話量が半端なくて今どういう状況なのか把握するのがこの2人にかかってるのすごいと思う。説明的過ぎないし、盗み聞きしてるから役として出てこないサム・ロス(近隣のギャング)とエズラ(オーナー)の容姿を想像しながら話が進んでいく。2人が会話してるところに歌いながら出てくるベイビーの声で会場の空気が変わる。立ち方とか本当に華があるなと思う。役者さん達とは違う発声方法で喋るんだけど、聞きにくいとかはないし、ベイビーのどこか虚構じみた雰囲気ととてもあってる。

 

オーナーが死んだっていうのをミッキーに聞かされたときに明らかに動揺する周りと、表情が一瞬抜け落ちて頭を柱にゴツゴツぶつけてミッキーとは目を合わせたままなベイビーのギャップがいい。ベイビーの演技で序盤ならあそこが一番怖かった。初見だしネタバレも読んで来なかったから、あれこれオーナーの死んだのにベイビー関わってる?って最初思った。

シルバージョニーが来てからジュークボックスは要らなくなったって話があったけど、あれはベイビーのことを言われてるみたいで居心地が悪かった。父親に幼少期からずっと性的虐待を受けてて、それが20歳になった頃に現れた17歳の少年にとって代わられてしまう。学校から帰ってきた息子をパンツ脱いで待ってるわシーツ噛ませてママには内緒だったり父親として最低なんだけど、これが日常ならベイビーからすれば可愛がられていたとか愛されてる唯一の証だったのかもしれない。それが今はなくて、周りにも腫れ物みたいに扱われてて狂言師みたいに狂ったふりでもしてないとやってられないかもなと。

そんなジュークボックスをなんとも言えない優しい笑顔で撫でるベイビーに自分を重ねているのかなとも思った。

 

スキニーに関しては出落ち具合半端ないなと。独特の訛りとか滑舌悪い感じとか。中の人滑舌いいはずなのによくやってるなという印象。何でスキニーとベイビーの2人だけ同じズボン?と思ったら俺の真似してる、お前俺のこと好きだもんな?って発言からなるほどと序盤思わせるのに、けっこう対比的な存在だった。ミッキーに2人で話がしたいんだと言ったときにスキニーは聞き入れてもらえるのに、ベイビーは承諾をもらえない。ミッキーに信頼して鍵を預けてもらったスキニーと、お前のこと信頼してないと言われるベイビー。

唯一あの中ならミッキーの言うことは聞く所や俺があんたみたいだったらよかったのになというところから尊敬もしてたし、ミッキーも序盤とても優しく気にかけてるから愛されてるとベイビーは思ってたと思う。それが父親が死んだって聞いたときに何となくミッキーが関わってるのに勘付いてそうだったし、シルバージョニーのジャケットを着て楽しそうに歌いながら踊ってるシーンから銀色の紙吹雪をミッキーにかけるところの表情が無表情で俺はお前の罪を知っているという暗喩なのかなと最後まで見てから思った。

 

ミッキーとベイビーに関しては最初から最後までのパワーバランスの変化が面白い。ベイビーを心配するミッキーは表面的とはいえ父親のようだし、ベイビーも信頼を寄せてるからミッキーの言うことは聞く。それが後半になるにつれてどこに電話かけるの?番号は?って代わりに電話かけようとしたり(ここでもう絶対父親殺したのミッキーだって気付いてる)俺たちはフェアじゃないとって言ってみたり、共同経営のことを話してみたり父親の真似事をしてみせる。

わざとだったんだろうし、自分からミッキーが言えば許してやってもいいと思ってのかな。信頼してないってミッキーに言われた時に父親が死んだって聞かされた時より目の光がなくなるから、けっこうショックだったんじゃないかと思う。そこからオーナーが死んだ原因がミッキーだとわかった時に立場が逆転する。許してくれって言うミッキーにごめん俺お前の悲しさわからないわとひと蹴りするシーンの表情が一幕の最後とシンクロしてるんだよな。

 

ベイビーの演技は声のトーンもそうだけど、目の演技がとても好き。狂言じみたことを言ってるときは目にハイライトが入ってて演じてるんだなと思うけど、時折みせるガラス玉みたいな目が感情を処理しきれてないっていうのが顕著で。まともな環境で育ってないし、本人も何も感じないとは言ってたから父親が死んでも反応が薄い。全部他人事なんだよなぁ。

『目が覚めて、自分がそこに存在していないみたいに感じることがあるんだ。感覚が何も無くて、麻痺したみたい。ほら、起きろ、生き返るんだ。感じるんだ。これまでみたいにって自分に言い聞かせてみる』って台詞のあれがたぶん子供の頃からずっと続いてて、環境としても全部に感情をのせてたら壊れてしまうと思うから周りの世界と薄皮一枚隔てることにしたんだと思う。それは無意識の蘇生術で、小さいベイビーが生きる為に必要だったんだけど、大人になってもそのままだから何でこうなったのかわかってないのが悲しいなと思う。

ポーカーやろうよ、下で飲もう、映画行こうとかスウィーツやポッツを誘うけど基本的に断られる。シルバージョニーのジャケット着て歌っても周りは賞賛しないし、気にも留めない。ここにいない感じがするっていうのに全部かかってて、スパンコールの比喩だってあれは外からみたらオーナーの息子だって言ってたミッキーの言葉と同じでお飾りってことを本人が自虐混じりに言ってる。鏡みたいなスキニーは馬鹿なのにミッキーから信頼されてるし(たぶんベイビーの中で欲しいものとして信頼って大きかったはず)その上お前の居場所はここにはないってそのスキニーがとどめを刺してくるんだから怖い。父親からの愛情も、尊敬してた人からの信頼もなくしてしまって最後の糸を切ったスキニーに銃を向ける動機としては十分だった気がする。

あとステージのスパンコールも青、ケーキも青、オーナーのスーツも青だった。ステージが青なのはやっぱり父親の存在感が際立つなと思ったし、ケーキに関しては真っ二つにされた話の後に出てくるし正気かと思った。死体のこと連想させるには良いパンチだった。酒もタバコもやるのに食事に関してはベイビーだけが手をつけない。

 

二幕のキーパーソンとしては牛の話が何の事をさしてるのか。

真っ二つにされて死んだ父親、犬の斬り刻まれた死体の話。犬の死体を見た事があるポッツが夢に見たって言ったときにやっぱ夢にみるのかなと真っ二つの死体を確認したベイビーがあまり気に留めていないような口ぶりで言う。タフだなと思ってたら二幕の後輩で8,9歳くらいの時に父親とドライブをして牛を轢き殺してバラバラに斬り刻んで血みどろで帰った話をする。2人でその作業をしてるのをただ周りの牛達は見てた。この話はオーナーのエズラの死に方にもリンクしてるし、本当は牛じゃなくて人だったんじゃないかと思う。仮に人を父親と殺していたとして、カフェの共同経営がうまくいってなかったこと、これは全部カフェのためだったことからカフェの共同経営者を殺していたら。父親とした共同作業であり、親がやっていた事を間違ってるとは思わないまま育ってたとしたら1人で乗り込んでサム・ロスを殺す事に躊躇いがなかったのかなと思う。

 

シルバージョニーに関してはスポットライトと賞賛を浴びるまさしくスターでベイビーとは真逆。ベイビーが一度だけマイクを通して歌うシーンがあるけど、まさしく冒頭でジョニーが歌ってた歌で、でもベイビーの歌には拍手の一つもない。

歌いながらよく移動してたりするしシルバージョニーかくる前はもしかしてベイビーステージで歌ってたんじゃないかと思った。だとしたら父親の存在を自分から奪った彼をステージのためとはいえ奪還してきて、出て行けと言われたのに戻ってくるあたりベイビーの世界は父親の作った箱庭の中にしかないんだなと思う。ジョニーもまた商売道具として大人たちのトラブルに巻き込まれる辺りベイビーとしては昔の自分と重ねてる部分がありそう。だからこそ2人でする会話にベイビーの普段の軽薄さはないし、ジョニーもひどい事をされたわりにきちんと話をきいている。

ベイビーの独白のシーンでどこにもいない感覚があるのを必死に揺り起こして毎日を過ごす。それが明日も続くと思ってたんだってあうのがあるけど、あれ見終わった直後は幼少の頃から時間が止まっていたのが動き出した→父親の呪縛から解放されるって意味だと思ってた。ただ、朝日が出てる時間すきなんだ。何かが起こる前夜みたいでっていう台詞を踏まえると、彼を取り巻く時間は動いてるのに永遠に彼の中の時間は動かないからこそ全部が他人事な彼が、父親と同じようなことをする事で時間を動かすことを試みるための暗喩で、だからこそずっと着てたジョニーの上着をマイクスタンドにかける。全てを置き去りにしていくって意味かなと。でもこれ結局父親と同じ道を辿ろうとしてるから結果的には解放されてなくて、ベイビーは永遠にあのままなのかなとも思う。

 

【疑問点】

ミッキーが洗面器に顔をつける意味は?

スウィーツとポッツも結局そういう関係だったのか?

そもそも本当にオーナーは死んだの?

すべてを変えたあの夏って結局いつのことをさしてる?

 

細々みるとまだありそうだけど、とりあえずこれくらい。

 

とにかく全部が全部これが正解ですとは言わない感じで余白を残してくれます。原案のバターワースの脚本がそういう感じみたいなので、私はけっこうテンポも良くて好きだけど、よくわからないってなる人はいると思う。敬浩さんのハイライトオンオフに本当にびっくりしたし、アップダウンの激しい役なのにどこか虚ろな存在な感じとかとてもよく表現されてるなと思う。もう舞台も公演が中盤の時期に見てるので、初日とかよりは確実に役が皆さんなじんでるんだろうなという印象。細かい部分がたぶん変化してそうだから後半も観に行けるので楽しみ。

 

あとスウィーツ本当に!!かわいい!すごく好きです。